「漫画ルポ 中年童貞」リイド社
原作:中村敦彦
漫画:桜壱バーゲン
【お勧め度】
★★★★☆(4/5点)
作者の描く中年童貞の気持ち悪さを楽しみたい人、自分は少しはましだと思って安心したい人などにお勧め。
【感想ネタバレ無し】
絵がキモイ。実際の中年童貞という存在の気持ち悪さをよく表現できている。社会問題を提起している様にも見えるが基本的に解決策が提案されているわけでも無く、一部自分の精神性を転換した実在の中年童貞は状況が好転したと、自力での解決例(らしきもの)が紹介される程度である。
実際のところ内容のほとんどは率直に言って中年の童貞男性の気持ち悪さ醜悪さをことさらに強調する事に費やされている。
もし中年童貞の当事者がこの本を読めば、気分を害するだろう。
しかしながら一方で、この本に出てくる中年童貞には色々なタイプがあり、中には身近に接したことのあるタイプが描写されているケースも多いのではないかと思われ、悪趣味ではあるが、そういった面から蔑みにも似た感覚や、自分の境遇にある種安心を与えてもらえる様な、エンターテイメント性は確かに存在する様に思われる。
男性のわが身としては、仮にこの本が「中年処女」であったら果たして出版されたのか、世に跋扈するフェミニストの皆さまにどんな非難を浴びたであろうか、疑問を感じざるを得ない事も確かである。
以下ネタバレ
全8章で構成され基本的に1から7章では1~2名ずつタイプの異なる中年童貞が紹介される。8章では総まとめ的な内容である。
1章で紹介される坂口は筆者が介護業界にいたころの従業員をモデルとしており、本書執筆のきっかけとなった人物とのことであり、表紙の顔も彼の絵である。
筆者が出会った介護職の中年童貞には、以下の様な共通項があり救いようが無いそうである。
※「→」は当方のコメント
「ハローワークの薦めでヘルパー2級を受講取得」
→いい事だ。
「プライドが異常に高い」
→プライドが高い事自体は問題あるまい。
「貧乏」
→これを救いようが無いというのは酷い。
「ダラしない」
→程度により問題かもしれない。
「嘘をつく」
→「すぐにばれる様な嘘をつく」では?だとすれば、後半に出てくる「性格が悪い」というよりは幼稚なだけかもしれない。
「人のせいにする」
→人のせいである事を人のせいに正しくするのであれば問題ないと私は考える。
「言い訳する」
→前項同様、私は言い訳があるのであればすべきと考える。逆に言い訳さえ出来ない様な者はそもそも考えて仕事をしていないのではないか?
「人生で成功体験が何もない」
→余計なお世話であろう。
「勉強も運動も苦手」
→同じく余計なお世話であり、仕事には関係ない。
「実家にパラサイト」
→なおさら余計なお世話である。収入も低いのに身の丈に合わない一人暮らしこそ、むしろ慎むべきでは?
「学歴が低い」
→学歴による偏見に加担する事は出来ない。
「弱い者イジメ好き」
→ここにあげられた特徴を持つ者より弱いものとは一体どのような存在であろうか?本当にその相手は中年童貞より弱い者なのか疑問。
「健康状態が悪い」
→余計なお世話である。
「性格が悪い」
→実際に悪いなら問題だが、この作者もそれなりのものであろう。
確かに坂口は上記の様な特性で描写されているが、ひどい話である。
2章で紹介される山下は院卒高学歴だが精神的に病んでいるパターンである。
彼の妄想の中での女性との関係が描写される。好きになった相手の裸やいろんな姿を妄想する様が描写されているわけだが、この程度のことは中年童貞に限らず男なら普通にする範囲だろう。むしろそれが妄想だけで終わる分、非童貞に比べれば彼は清潔ではあるとすら思われる。
彼は女性への思いがかなえられず、結局公衆の面前で首を切るという自殺未遂まで犯すわけであるが、その後宗教により過激な行動は抑えられる様になったそうだ。
端的に言えば彼は当時病人(もしかしたら今も)であり、1章の坂口と違い(筆者の描写の範囲でも)少なくとも現在何か周囲に害悪をまき散らしているわけでも無い。
それどころか、正義感にあふれ正しい内部告発を行った模範的な社会人とさえいえる人物である。
ちなみにモデルとなった本人(中宮崇さんという方らしい)のTwitterアカウントはこちら。
https://twitter.com/ymhxbjlhfznkwuf
ご本人もモデルである事を公言されているので特に紹介しても問題なかろう。
ちなみに筆者曰く宮田氏は「ネトウヨの神様と呼ばれる人物だったのだ」という事らしいが、上記Twitterアカウントのフォロワー数は2021/03/01時点で191名。
主催サイトのアクセスカウンターは2000年からの設置で2021/03/01現在約24万5千回程度。
こちらの記事などを見るにつけ、結構な実績はお持ちのようであり、フォロワー数も少なくはないが「ネトウヨの神様」とまで言うには、些か疑問が残る様に感じざるを得ない。
脚色なのかどうかは分からないが、筆者の記述を、どれも鵜吞みにするというわけにも行かない様である。
4章のアニヲタの本山・ドルヲタの松井は秋葉を舞台にしたケース。
この章はヲタク=童貞というあまりに王道の図式で個人的にはあまり起伏を感じなかった。
5章の鈴鹿イチローはAV女優にすら拒絶されて童貞のまま亡くなったAV男優だったらしい。
ご両親によると遺書もなく自殺したとの事。当日もコンビニへ買い物をしに行き、死ぬつもりはなかったのに衝動的に自殺に至ったのではないかという見解である。好きなアイドルはマッチと聖子ちゃん。
この章は古い話(氏が亡くなったのは2002年の事)でもあり、率直に言って筆者がどうしても書きたかったから書いた章という見え方しかしなかった。筆者も白状しているが、鈴鹿イチロー氏の有名になりたいという遺志を継いだそうだ。
それは良いが、中年童貞というテーマの本書にあまりにレアケースでありしかも現代とは時代感覚が微妙に異なる本事例を収録した判断には、若干疑問が残るところである。
6章は後天性の性同一障害の松野のケース。端的に言うとモテな過ぎて男に走ったという事だそうだ。当事者でない以上何とも言えないが、私も多分にモテなかったが男は無理である。
一方で性欲の強い男性が満たされない苦悩の深さもわからなくはないため、判断しかねる事例ではある。というかまぁ彼の場合定義にもよるが男性とは致しているので童貞かどうかは微妙なところである。
7章の蒲田は婚活パーティーに通う低収入男性との事。優香みたいな人と出会いたいと夢を見ているそうだが、自由にさせてあげれば良いと思う。
低収入とは言え婚活パーティ―にはお金を出し、経済を回しているわけで、蒲田を客としながら(料金を取りながら)本人同意の元とは言えこんな取材に手を貸した婚活パーティ業者こそ(実在すればだが)害悪のそしりを免れないのではなかろうか。
・・・と、いろいろ批判的なことも記載したが、単に怖いもの見たさ、興味本位のエンターテイメントとしては中々描写がキモくて完成度が高い一冊であった。
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